「働くことで自己実現する女性」の元祖 上田としこ

姉がまたマンガを送ってくれました。
龍-RON-や仁-JIN-で有名な村上もとか
現在ビックコミックオリジナルで連載中の「フイチン再見
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上田としこ(トシコ)さんは、まだ職業として女性が漫画家を目指す土壌の無い時代に
少女漫画家の道を拓いたパイオニア的存在の漫画家です。
そんな彼女の生涯を描く「フイチン再見」
タイトルは彼女の代表作「フイチンさん」(講談社『月刊少女クラブ』昭和32年1月号~昭和37年3月号まで連載)からきています。
今、復刻版が発売中
私たちの母も祖父の仕事の都合で昭和初期に大連に生まれ育ったので、
「フイチン再見」に出てくる戦中戦後の話は、母からよく聴いていた話と重なるところが多々あります。
当時、日本人は戦勝国民としての選民思想が高く、中国人に対して下に見るような言動が多かったらしいのですが、母は捉われるところが少なく、中国人の友達も作るタイプであったことや、祖父の教えも「人を差別してはいけない」ということだったので、この点、上田家の在り方と似てるなあと思ったり、
戦後、敗戦国民となりロシア軍人の横行や婦女暴行の実態や、熾烈な引き上げ船での話などは聴いていた通りで個人的に非常に興味深いです。
まだまだ女性の生きる道の選択肢が無かった時代、世界戦争という外的環境に余儀なくされたこともありますが、自ら希望する・しないに関わらず、当時【女性がはたらく】ということは、自動的に【男性社会に生きるパイオニア】となるので、アウェーな場において遭遇するであろうさまざまな困難がリアルに描かれています。
しかし、こうした局面に対する上田としこの切り抜け方がとても魅力的なのです。
現代のはたらく女性も見習いたい【しなやかなスタンス】が闊達に描かれています。
具体的には3巻、満鉄(南満州鉄道)で女性社員のあまりにもひどい待遇を改善させるために
「どうしたらよいか?」と考えたことは、自分矢印で「待遇改善を会社に要求」することではなく、
大戦中、男性がお国のために出征して人手が足りなくなる予測を元に、
相手矢印で「男性社員の代わりに女性社員が会社に貢献する」を旗印として待遇改善を主張し、その実を勝ち取る。
大事なのは、そのあとで、先輩から「(交渉のための)お芝居が上手ね」とチクリと言われた時に
「いいえ、お芝居じゃありません。漫画です」「これは『漫画の心』なんです!」と返すシーン。
女性が男性社会で思うような処遇が望めない状況でも、諦めず、腐らず、正論を振りかざしすぎず、自ら定めた目標を達成するとともに自己実現をはかって成長していく姿がそこにあります。
上田としこには『漫画の心』というリーダーシップがあったのです。よく言われる『自分らしいリーダーシップ』を考えるヒントがここにあります。
母も、終戦時は15歳、2年間は大連の製薬会社で、まず働いていました。
そこで、薬剤師になる目標を持ち、帰国後20歳になって高校に行き大学で薬剤師の資格を取り
組織で管理薬剤師として働き定年後は、街の薬局で70歳過ぎまで働いていました。
子どもの頃、母に「なぜ働くのか?」という問いを何度となく投げましたが
「生活のため」「お金のため」が最優先事項ではなく(それももちろん大きな理由ではありますが)
何よりも「自己実現」であり、結果「生活できるお金」がついてくる・・・というような意味の答えがいつも返ってきたことも思い出します。
母の答えは私の中に「自己実現」ってなんだ?という新たな問いを生みました。
小学生のころはよくわからないまま、自己内対話で問いを繰りかえし、
その当時の私のちいさな尺度の中から何らかの仮説を立てていたように思います。
この繰り返しが今の私のベースにもなっているんだなと「フイチン再見」を読みながら思い出した次第です。
というわけで、一気に6巻まで大人読みしてしまいました。みなさんもぜひ。
3/30には第7巻が出るようなので楽しみにしています。