2019年Woomax公開セミナー『組織のジレンマを乗り越える』レポート(2)基調講演
目次
第1部 基調講演 『女性活躍のジレンマを乗り越える』
基調講演では、元・日経BP社の経済記者で、
現在はウェブメディア向けの執筆、自治体・大学・企業向けの講演、
広報関連の助言業務を精力的に行っているフリージャーナリストの治部れんげさんに
『女性活躍を進めたいのに、中々進まない組織での課題と打開策』について、
参加者からの意見も交えながらご講演いただきました。
内容は、3つの切り口で構成されていました。
1:女性活躍を進めたいのに、進まない理由とは?
2:成果事例紹介(解決策は一つではない)
3:共感される「女性の経済的エンパワーメント」
1.女性活躍を進めたいのに、進まない理由とは?
1-1 女性たちが出世を拒んだり、退職する理由の「育児」は本音か?
- 女性が出世を拒否したり退職する理由として「育児」が挙げられることが多いが、
米国のシンクタンク Center for Talent Innovationが日米の大卒女性を対象に行った調査(2011年)によると
「育児」「介護」よりも「仕事への不満」「行き詰まり感」の割合が高い。 - 出世を拒んだり退職するときに述べている理由は実は「本心」ではないかもしれないので、
実際のところを聞いてみてもいいかもしれない。
会社が配慮として行っていたことが、社員によっては必要としていたことと合致していない場合がある。
1-2 共働き夫婦が抱えるジェンダーバイアス
- 日本の共働き夫婦の間では、「共働き」については合意していても
「家事・育児・介護などの分担」について十分に話し合えていないケースが多い。
夫は「(自分の親と比較して)十分にやっている」と思っており、
妻は「家庭内の仕事は女性が多く担うもの」というジェンダーバイアスから協力分担について言い出せていないのでは。
その分の負担軽減を企業に高く求められているとも言える。
1-3 女性活躍が進まない悪循環
- 誰かのサポートを誰かが“暗黙の了解”で進めている状況は打破するべきではないか。
1-4 女性が言う「自信がない」の実態
- 男性はミッションが60%くらいできると思えれば承諾する、女性は100%できると思わないと承諾しない。
これを理解している上司であれば「自信がない」を文字通り受け止めない。
2.成果事例紹介(解決策は一つではない)
- 入社した頃「女性はサポート」が定説だったならば、その概念が今も根付いている可能性がある。
昇進は想定していなかった。「今さら活躍といわれても」という人たちには、
『時代と共に(女性が営業に出るようになった等)役割の変化がある』ということも説明しなくてはいけない。 - 「働き方改革」を発端として「女性活躍」が奏功した事例がある
- 大手損保会社で7~8年前、事務をIT化したら事務職に就いていた女性社員の仕事がなくなった。
試しに営業に挑戦してもらったら予想以上に成績が良かった!
男性部長は女性社員の能力に感心し、営業職にも積極的に女性を登用するようになった。
評価についても「男女差を考えてではなく、成績で見て平等に評価しなくてはいけない」と話していた。 - 大手SPA企業で女性店長の結婚退職が課題に。
社長は「20年前だったら『女性は結婚退職するから採用しない』と言えたが、今はそんな時代ではない。」と話した。
店長職の業務を洗い出し、やらなくていいことはやめる、店長以外でもできることは部下たちに権限委譲したところ、
店長の勤務時間が13時間から8時間に短縮された!
翌年から女性店長の離職率が明白に低下した。また全国に店舗があるので、パートナーの転勤に帯同する際、異動できることにした。
- 大手損保会社で7~8年前、事務をIT化したら事務職に就いていた女性社員の仕事がなくなった。
3.共感される「女性の経済的エンパワーメント」
- 講演などで「女性活躍」について参加者に尋ねると、地域・性別・年齢を問わず違和感を抱いている人が多い。
特に女性は「ふつうに働きたい」と表現する人が多い。 - 海外では「女性の経済的エンパワーメント」 =Women’s economic empowermentとして語られることが主流。
この言葉には、女性個人の幸福を尊重する意味が込められている。 - 「女性活躍」の言葉には抵抗を感じる人の多くが、2015年の国際女性デーに国連会議で行った
メーガン・マークル妃(サセックス公爵夫人)のスピーチには共感を覚える。
[動画はこちらから] - 当時11歳だったメーガン妃の指摘によって、CMのキャッチコピーを変更したP&Gは現在、
CMでジェンダー平等をテーマにすることは多く、社内のジェンダー平等も進んでいる。
治部さんは、「女性活躍」にはモヤモヤして、「女性の経済的エンパワーメント」と言われると共感するのは何故だと思いますか?という問いを投げてくださいました。
このレポートを読んでくださった方も、ぜひ自分の意見を言語化し、
周りの方とこの「何故?」について、話してみる機会を持つことをお勧めいたします。
以上、数多くの取材に基づく企業や個人のリアルな実態と、日本で起きている課題の本質(女性のワンオペ育児を前提に育児支援施策ばかりでは、なかなか上手くいかない等)や国際的なテーマを俯瞰した鋭い内容の90分でした。
基調講演アンケート(抜粋)
- 「非常に高い意味での『女性活躍』とミクロレベルでの『女性活躍』を示していただいた。」
- 「多角的にエビデンスを例示してご説明頂き納得できた。」
- 「女性活躍推進における本質的な問題をクリアに理解できる内容だった。」
- 「『女性活躍』という言葉にしっくりこない私自身がまさに話の対象で驚いた。」
- 「『平等でないという認識がないことが問題』という指摘にとても同感した。」
などの声がありました。